「新しく会社を始めようと思うんだ」
彼との会話はいつも唐突に始まる。つい何週間か前にも二人で飲んだはずなのに、その時はこんな話はおくびにも出さなかった。
今日はいつも彼と来る居酒屋ではなく、ちょっと大衆酒場っぽいところだ。歓送迎会がラッシュになる時期で、いつもの居酒屋は予約で一杯だったのだ。最初のビールが届く前に、お通しに箸をつけながら彼は喋りはじめた。
『どんな仕事の?』
「"SNSNS"って言うんだ」
「"Social Network Substitute Neating Service"」
『どういう意味?』
「今さ、ツイッターにしろフェイスブックにしろ、ミクシィとかブログとか、大抵の人達は何かやってるだろ?そんな人達がターゲットなんだ。簡単に言えば、"SNS代行サービス"ってとこかな」
『つぶやきの代行?』
「そう、例えば芸能人なんかはさ、SNSも仕事になっちゃってるだろ?ホントに本人がやってるかは知らないけど。ずっと続けていける人って限られてるんだと思うんだ。それに、芸能人じゃなくても、自分がフォローしてる人とか、マイミクの人が、数日どころか数週間なんにも更新してなかったら少しは心配にならないか?たとえそれがネット上だけの関係だったとしても。それに、ログイン状況とかで安否確認もできる時代なんだ。もし仮に"自分が操作できない状況"になっても、継続を希望する人はいるはずなんだ。本人じゃなくとも、ね」
自分以外の誰かが「新宿駅なう」とつぶやいている。
大抵のフォロワーは、私が新宿にいると思いこむだろう。私は特にウソのつぶやきをしたことはない。
本当の私は、病院のベッドで寝ている。
そんな光景が頭に浮かび、私は目を強めにつぶって首を横に振る。
「これには本人、もしくは本人に極々近しい人からの承認を得る。それから数年分のこれまでの動きを遡らせてもらう。本人の実際の行動、その中で発信している事、発信していない事を細かく分析する。写真のアップが多いとか少ないとか、現在地情報をオンにしてるとかオフにしてるとか、くまなくやる」
『なんか悪用されそうだけど』
「そこまで視野に入れて、のビジネススタートさ」
この会話は、私が思い出しながら綴っている。続きを思い出すにはもう少しかかりそうなので、一度ここで筆を置く事にする。