たぶん15年くらい前がきっかけになったんだと思う。
若者がポケベルを持ち始めた。
初期は数字の羅列しか送れなかった。
プッシュボタンの組み合わせで文字や対応する簡単な絵文字が送れるようになった。
ごく簡単な自分の意志を、ごく簡単な方法で相手に伝えることができるようになった。
"ベル友"だとか"ベルフレ"などという言葉もできた。
適当なポケベルの番号にメッセージを送り、どこの誰とも分からない相手と他愛もないやり取りをするという、今となってはあまり考えられない事を頻繁に行う者もいた。
あまり考えられないとは言っても、これは手紙をつけた風船を飛ばして、誰でもいいからそれを拾った相手と文通を始める、というのと同じだ。
時は進み、PHSや携帯の個人所有率が上がった。
ポケベル全盛期は極めて短かかった。
わざわざ公衆電話や家庭の固定電話を使わずとも通話ができ、簡単なことならポケベル同様プッシュボタンの組み合わせでメッセージが送れた。
電子メールがごく一般的になった。
人々のやり取りを指す言葉は"レター"から"メール"へと変わっていった。
紙にペンで書かれた文字を見ると、どこか懐かしい気持ちを抱くようになった。
たとえそれがただのメモ書きだったとしても。
昔、手紙をやり取りしていたあの人の筆跡は、まだクセのあるまんまだろうか。