涙はめったに流さない。
特に人前でなど。
ましてや、家の誰かの前でなんて、
もってのほか。
普段泣かない分、
驚かれるし戸惑われるだろう。
ヤツらはオレの泣き顔など生まれてから見たこともないだろう。
弱さを見せてはいけない相手、その前では。
しかし人間には弱いところがあって、
ときたまに怒りに変換したり、
黙って押し殺したりする。
気丈に振る舞ってはいても、
どうしても不安と動揺と溜め息と、それらとまた別の感動が積もっていく。
でも絶対に家では涙を流さない。
弱さはいとも容易く伝染してしまう。
どうしようもなくなったときは、「ガソスタ探してくる」なんて言って独り車に乗って、
眩しい朝日に目をすぼめながら、
こっそり大好きな曲をCDプレイヤーにセットして、
ハンドル握ってアクセルを緩く踏み込み、
一筋だけ頬をつたってゆくのを許す。
それが乾いたころに何気ない顔で、
「ただいまァッ」って玄関を開ける。