HAPPY! I SCREAM

妄想雑記

firefly


19時20分、家を出て車で向かう。地図上は理解できる場所、ただし実際には通った事のない道路。
空の藍色と濃いオレンジを残して、辺りは暗く染まっていく。尚も山道を走らせる。窓は開けると寒いが閉めると蒸し暑い。
自分を俯瞰できる能力とか、カーナビとかでもあればそうそう迷いはしない。夜の闇の中、目印となるコンビニに到着。
地図通り、国道を折れて細めの道路に入る。「今日はいないと思うんだ」なんて後部座席から諦めのような言葉が聞こえてくるが、それを言ってはおしまいなので無視する。
地図の記憶を頼りに、ひたすら真っ直ぐ進む。辺りはお隣まで歩けば数分はかかるような間隔で、民家が建っている。その向かいには田んぼ。道は車がすれ違えないほどせまいし、暗い。しばらく進むと、T字路に当たる。こんな図式は地図の記憶にない。つまりは、迷ったのか。「こんな暗い所で探すくらいなら、帰りたい」という声が後部座席から聞こえてくるが、それでは本来の目的を達成できないので無視する。民家の窓から、不審そうに顔を出す人。とりあえず来た道を戻るべくUターン。
始めて通る夜道は、逆から進むとさっき通って来たとは思えない。目印のコンビニが視界に入ってきたところで、小さな看板らしきものを発見。
目的地(神社)へは左折するような表記。しかし、暗い夜空に藍色の看板とは、この時間に易しくない。田んぼの畦道をひた走る。所々に街灯が在り、道らしき線を確認する。丘っぽいところを登ったところで、左側が開ける。車で来た人のための裏参道、駐車場?に車を停める。境内の裏側から入るような形。木々に囲まれた境内へ行くには、軽く肝試し状態。「怖いから行きたくない」という声が後部座席から聞こえてくるが、行ってみない事には何も始まらないので無視する。写真で見ていたのとは違い、かなり狭い境内。飛び交う蛍などいそうにない。歩行者の為の表参道を遥か下に確認するが、降りる気にはならない。参道の脇の田んぼにはいるかもしれないが、少しずつ諦めの気持ちが沸いてくる。
車を発進させ、「怖くて風が強くて寒かった」という後部座席の声に、相槌を打つ。
藍色の小さな看板までもう少しのところで、往生際悪く車を止めて周囲を見渡してみる。両側とも、稲が風にさらされている。街灯の反射する葉と闇の中に、フワリと蛍光グリーンの点が見えた、と思ったら消えた。車を降りてパノラマに拡がる田んぼの闇をみつめる。さっきと同じ所に、また点が光って消える。
足元には畦道の脇に草が生えていて、そこにも蛍光グリーンの点がチラリと見え隠れする。静かに近づいて、茎を傾けて写真を撮る。蛍をつまんで、手の平に乗せてみる。虫が肌の上を動く感触は気持ちがいいものではないが、お尻を光らせて移動していく小さな蛍はその感触を我慢させてくれる。


眼下一面に飛び交う蛍の群れ、というシチュエーションは叶わなかったが、個体数で4つは視認できた。風が強い日だったのと、もう少し時期を前倒しすれば、また来年も見れるかもしれない。肝試しもしなくていい事も分かったし。
「なんか、全部蛍に見えてきた」という助手席の声に、「また来年だな」とか、「蛍って英語でなんていうか知ってる?」とか「火と蝿」とかウンチクたらしながら家から来た道を引き返す。